結婚式とお葬式の変化から見る私たちの葬送観


  • 結婚式とお葬式は約十年から十五年のタイムラグを介して、同じような形態の変化が見られる。例えば結婚式をみてみよう。

*行なう場所についての変化
・・自宅――専用の結婚式場――そしてホテル。
*宗教意識についての変化
・・神前・仏前――人前・キリスト教無宗教)。
*イメージやファッションの変化
・・和風――洋風
内掛けからウェディングドレス。和食から洋食。
*社会的スタンスの変化
・・「家」(ご両家)の重視――個人同士を重視。
*人間関係の中心は
・・親族関係から――友人関係を重視。
*結婚式の規模や費用の変化
・・ハデ婚――ジミ婚

  • 従来、婚儀・披露宴などは家内でなされてきた。近所の料理屋や公民館などもあるが、冠婚葬祭互助会などの進出により、専用の結婚式場が建設され始めたのが昭和三十年代に入ってから。それにより専用の豪華施設を利用しての婚礼が多くなった。ゴンドラやドライアイス、本物の高級スポーツカーなどを配して、何度も行なうお色直しなど、ばかばかしいほど派手な演出が「ハデ婚」の流行語を生んだ。けれどもその軽薄さと新郎新婦の「見世物的・さらし者的」な趣向がすぐに飽きられ、シックなホテルで、スマートなサービスを受けながらの会食を中心とした指向に変更していくのである。それがバブル崩壊後は、とりわけ、「二人だけで教会で」、披露宴は友人を中心として、居酒屋など会費制でと云う、いわゆる「ジミ婚」へと移り変わっていく。
  • 婚儀における宗教意識も神・仏から、ファッション、スタイルの面からキリスト教会へ移行していくが、もちろんキリスト教に帰依し、クリスチャンになったわけではない。一番大きく意識変化したのが、「ご両家」から「ご両人」、つまり家のつながりから個人的な絆を重視するようになったことだ。同時に婚儀が「儀礼」ではなく「イベント化」した。全く同じ道筋を葬式の変遷がたどりつつあることに、気がつかれたと思う。つまり

*行なう場所について
・・自宅・寺院――専用斎場――ホテル葬。
*宗教意識について
・・神式・仏式――無宗教葬への要望。お別れ会・偲ぶ会・音楽葬などの増加。
*イメージ的なもの
・・和風的――洋風的
棺など素材が、桐から布張りの洋風的に。生花祭壇などの要望も増えている。
*社会的スタンス   
・・「家」(親族先祖中心)――故人・喪主の意向が重視される。また、「家」を中心にした地域共同体から、まさに内々だけで。
*人間関係の中心は
・・親族――故人の社会的関係や友人関係が、重視。同様に個人的な部分だけで葬儀は充分と考える。
*お葬式の規模や費用に対する感覚
・・ハデ葬――ジミ葬
緊縮財政を踏まえて多額の支出に対する警戒と喪主世代の高齢化。「行い」の意味や意義の欠落など。

  • この結果をたどる変化には、結婚式同様、お葬式を「儀礼・儀式」ではなく、金のかかるイベントと位置付けてしまったことが見受けられる。そのため、「お葬式をしない」人まで現れ始め、それが何となく風潮化するとともに、お葬式をしないことが、社会的なメッセージや故人のライフスタイルなどに寄せたポリシーを示すような形で評価され始めている。特に有識者・文化人といわれる著名人が、このような思いをはせ、存在感を持ってこれを実行している。これに共感を覚える庶民も多いが、これがきわめて表層的な思考から発していることで、そういう有識者であっても、ことお葬式に関しては、あまり私たちの感覚からかけ離れているわけではない。つまり伝統的な葬送の意味や意義を私たち同様、全く顧みることなく、個性やユニークさの発想から際立たせているようにしか思えない。